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洗濯機!
屋外に置くという、あり得ない造りにするから、こうなるんだ。
じゃあ、窓から降りよう。二階だから大丈夫。
再び室内に戻る。
カーテンを開けて窓のロックを解除……できなかった。接着剤で固定されたようにロックが降りない。
不意に外を見て違和感を覚えた。近隣の家やマンションの窓にはライトの光があった。停電ではない? それとも、この建物だけ……。
その時また、ピシッと家鳴りがした。数秒経ったあと、2回目、3回目……。
「いやーーー!!」
背中に悪寒が走った私は、ベッドに飛び乗って両手で耳を塞いだ。
家鳴りは数分間つづいて、止まった。
心臓はバクバクと打っているが、少しだけ冷静さが戻っていた。
――困ったら、連絡して。
亜理咲の言葉が頭をかすめる。彼女は近くに住んでいる。深夜だけど、いいよね。
スマートフォンのライトでバッグを探して、メモを取り出す。
別れ際はギクシャクしたが、助けに来てくれないほどひどい状態ではないはず。
メモを開いた。
可愛らしい文字で電話番号が書かれており、その下にメッセージが添えられていた。内容はあとで確認しよう。まず電話だ。
電話アプリを開いた私は、唖然としてしまう。
――アンテナ……0本!!
通信状態を示すアンテナ表示がゼロになっていた。この部屋は電波状況が良かったはずなのに。
――閉じ込められた! 連絡もできない!
地震で建物が歪んで、トイレから出られなくなった老人のニュースを見たことを思い出す。老人は結局、亡くなってしまった。私も同じ結末になるんじゃ……。
あざ笑うかのように、また、家鳴りがした。
私は何度目かの悲鳴を上げた。
亜理咲からのメモを開く。何かしら人間の存在を確認したくなった。
――えっ、そんなことが。
メモには驚くべきことが書かれていた。
『女は住人を外に出さない。脱出する方法は、ただ一つ。悲惨な話をすること。女が自分よりも不幸だと認めたら、部屋から出られる』
死んだ女性はドアに何本もチェーンを付けていた。亡くなったあともここに残り、住人を閉じ込めるのだ。
家鳴りがしている天井が、ロープを吊るした場所……に違いない。
「いるの?」
震える声で暗闇に問いかけると、ピシッと家鳴りがした。
私は覚悟を決めた。
脱出方法は分かった。亜理咲が話そうとしたのは、これを伝えたかったからだろう。
不幸な話、不幸な話……。
他人の話じゃだめ。自分の話でなければならない、そんな気がした。
「小学校のとき、コンビニで買ったハンバーガーをカラスに取られた」
家鳴りが3回。内容が不満、そう告げている気がした。こんなのは不幸とは言えない。分かってる。試してみただけ。
もっと、不幸な出来事……私は記憶を辿る。
思い出せ。何かあるはず。もしなければ、ここで最期を迎えることになる。私は必死で思い出そうとした。
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