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Lesson!!
木曜日の午後五時。
音羽ピアノ教室に小学校二年生の女の子、はるかちゃんが、お母さんと一緒にレッスンにやってくる。
「かなせんせい、こんにちは」
「奏先生、今日もよろしくお願いします」
レッスンの時、いつも親子で挨拶をしてくれ、
「こんにちは。では早速レッスンを始めましょう」
と、私も挨拶を返す。
彼女は一ヶ月ほど前にバイエルが終了し、ブルグミュラーの二十五の練習曲を始めたところだ。
現在教えているのは第一曲目の『素直な心』。
ブルグミュラーの二十五の練習曲で有名な曲といえば、二曲目の『アラベスク』だろう。
三十分間のレッスン。
まずは、はるかちゃんの背の高さに合わせて椅子の高さを調節し、グランドピアノのペダル部分に補助ペダルを付ける。
はるかちゃんのお母さんは、私が用意した椅子に腰掛け、レッスンの様子を見守っている。
「はるかちゃん、弾いてみようか」
私は、はるかちゃんの左隣に座り、彼女の演奏を聴き始めた。
****
はるかちゃんは、ところどころ弾きにくいフレーズがあるのか、ミスタッチが目立った。
「ねぇはるかちゃん。この曲歌えるかな?」
「え? わたし、このきょく、うたったことない」
「歌った事がない…………う〜ん……そうかぁ〜」
(今から私が言う事を、小学生のはるかちゃんに言うのは酷かな……)
少し考え、小学生にも伝わりやすいように、私は言葉を選びながら、はるかちゃんに言った。
「はるかちゃん。すごい不思議な事なんだけど、この曲を歌えないって事は、ピアノで弾いても弾けないんだよ」
「え〜!?」
はるかちゃんは、少しびっくりしたように目を丸くした。
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