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「はるかちゃん、まずは右手の所から歌ってみようか。先生が左手を弾くから、はるかちゃんは右手のところを歌ってくれるかな?」
さんはい、と声を掛けて、私は左手の和音を鳴らすと同時に、はるかちゃんは歌う事が恥ずかしいのか、しどろもどろに歌い始めた。
ミスタッチしていた部分は、彼女も歌いにくいようで、旋律がうまく繋がらない。
はるかちゃんが時々、首を傾げながら辿々しく歌う。
時間が少し掛かりつつも、何とか右手部分を歌い切った。
「じゃあ、次は左手の所を歌ってみようか」
「せんせい、さいしょのわおんは、どうやってうたえばいいの?」
「♪ドミソ〜ドファラ〜♪って感じで歌えばいいよ」
「は〜い」
先ほどと同じように、さんはい、とカウントして、私は右手の旋律部分を弾き始める。
はるかちゃんは右手よりも左手の伴奏部分が歌いやすいのか、最後までスムーズに歌い通せた。
****
「かなせんせい」
「なぁに?」
「どうしてうたうの?」
小学校低学年の女の子からしてみれば、ピアノのレッスンに来ているのに、何で歌うのだろう? と単に疑問に思ったのだろう。
「あのね、はるかちゃんがもっと上手にピアノを弾けるようになるためと、音楽に『はるかちゃんの気持ち』を吹き込むために歌うんだよ?」
「わたしのきもち?」
小学生には難しすぎただろうか? こういう時、語彙力のない自分が情けなくなってしまう。
「はるかちゃんが気持ちを込めて歌った後にピアノを弾けば、更にピアノの音も生き生きして上手になると思うよ」
言葉を噛み砕きながら、はるかちゃんに伝えてみたが、果たしてどうだろうか。
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