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「いっつも思うけど、ここの夕焼け綺麗だよな」
三階の共用廊下に出ると、空は燃えるような朱色に染まっていた。
時代は変われど、変わらないでほしいものもたくさんある。
「ほんとに。住んでみなきゃわかんなかったね」
隣に立って同じ景色を見つめた三葉は優しく微笑んだ。彼女の揺れる前髪も、頬も、耳たぶも、全部が夕陽に焼かれて色づいている。
僕はその綺麗な花の名前を呼んだ。
「三葉」
「なに?」
「どうだった、この町」
「んーそうだねえ」
三葉はスマホを持ったまま、顎に人差し指を当てた。半透明のビニール袋がかさりと音を立てる。
「──うん。けっこういい町だよ、ここ」
うれしそうに結果発表をする幼馴染に、僕は「よかったな」と微笑んだ。
たった二択の願いごとだけど、こんなにも誇らしい。
「あ、見て」
「ん?」
三葉が指さす方向を見ると、宙に一枚の花びらが浮かんでいた。
この辺りでは見ない花だ。どこからか風に乗ってやってきたんだろうか。
「誰かが千切ったみたいだね」
彼女の呟きが空に流されていく。
夕焼け色の花びらはそのままゆっくりと揺れながら、二人の部屋の間にひらりと舞い落ちた。
(了)
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