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『マンションに意匠は必要でしょうか』  いつかのニュース番組でコメンテーターが口にした言葉だ。現代の生き方がトークテーマだったと記憶している。 『部屋の中をこだわるのはわかりますよ。人が住む場所ですから。けど外観なんてなんでもいいじゃないですか。部屋が綺麗に並んで、廊下と階段とエレベーターがあって、夜に電気がつけばね』  極端だな、と僕は思った。  同じ番組を見ていた視聴者も同じ気持ちだったと信じたい。 『そんなことよりもっと誰でも引っ越ししやすい世の中にすべきです。高いし大変なんですよ、引っ越しって。もっと安く簡単に引っ越しできれば、みんな住む場所を好きなように決められるようになる。これぞ多様性に寄り添う生き方でしょう』  彼の言葉にどれだけの力があったのかわからない。  たまたまその番組を見た総理大臣か、それに並ぶ偉い人が感銘を受けたのかもしれない。それこそ神様の悪戯に過ぎなかったのかもしれないが。  マンション統一計画が始動したのはそれからちょうど一年後だった。 「引っ越して一ヶ月経つけどまだ自分のマンションがわかんなくなるときあるよね」 「見た目ぜんぶ一緒だもんな」  吊り革に掴まりながらぼやく彼女は窓の外を見つめている。  僕たちはたまたま会社の方向が一緒だったので同じ通勤電車に乗っていた。  車窓を流れる景色は新鮮だが、どの場所にも見たことのある外観のマンションが立っている。着々と計画は進んでいるようだ。 「でもよく考えるとすごい発想だよね。部屋を一個の箱にしちゃうとか」 「ああタンス理論だっけ」
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