6人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
統一計画では『マンションはひとつのタンスである』という概念が採用されている。
マンションという白い『枠』に部屋という『箱』を差し込んでいく、という考え方だ。
部屋は間取り別に、すべて同じサイズの『箱』に統一されている。僕の部屋も彼女の部屋もワンルームなので外形は同じ大きさだ。
引っ越しはその『箱』を各地に建てられた『枠』に差し替えるだけ。
部屋を丸ごと運ぶので家具の固定さえしっかりしておけば荷造りも掃除も必要ない。専用の重機で自分の部屋が運ばれていく光景は圧巻だ。
「シンプルだけど言うほど簡単じゃなさそうだよな」
「きっと裏でがんばってる人がいるんでしょうね」
僕たちもどうしてこの超理論が成立しているのかはよくわかっていない。
ただスマホしかり、世の中にはすべてを理解せずとも使えてしまう便利アイテムがごまんとある。世間がその利便さを受け入れるのは早かった。
瞬く間に既存のマンションは取り壊され、枠だけのマンションが増えていった。
今やどこを見ても同じデザインのタンスで溢れている。
「まあおかげで住環境は良くなったよね。上の階の人がうるさかったりしたらすぐ引っ越せばいいし」
「確かにな。でもテレビでやってたけど引っ越しが簡単になったせいで新しい犯罪も増えてんだって。引っ越し詐欺とか」
「引っ越しても引っ越してもすぐ隣に越してくるストーカーとか?」
「ただし幼馴染は除く、ってテレビでやってたな」
「メディアは当てにならないね」
三葉が答えたところで電車が駅に着いた。「私ここで乗り換えだから」と彼女は降りていく。
僕は彼女の背中が人混みに紛れて見えなくなるまで見送った。
最初のコメントを投稿しよう!