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「他人の片想いは邪魔するもんじゃないぜ」
「あんたの青春がうちの窓とポストを汚してんだよ」
「なんだお前彼氏か」
「残念ながら幼馴染だ」
「あ、てか今ポストって言ったか。そういやさっきラブレターとか言ってたな。あれは彼女に届けたはずだが」
「一通も余さず僕の机にしまってあるさ。証拠としてね」
「……ああ、騙されたってわけか」
ざり、と音が響いた。男が芝生を踏みつけた音だ。
木の陰から完全に姿を出して僕の元へ一歩だけ歩み寄った。
「腹立つな、お前」
男の手の中のトマトが歪んだ。
隠そうともしない敵意に僕は半歩下がった。飛び掛かられても避けられる距離を取りながらポケットからスマホを取り出す。
光る画面に表示されている110の番号を見せつけるように男に向けた。
「これ以上近づくと通報する。捕まるぞ、あんた」
僕がそう告げると、男は一瞬驚いたように目を見開いた。
そして声を上げて笑う。
「そんなので俺に勝てるって本気で思ってんの」
「日本の警察は優秀だってテレビでやってたからね」
「メディアは当てにならないぜ。それに、ボタン押す前にお前を潰すから」
「そんなこと」
「できるさ。空手五段に柔道四段だからな。野球で甲子園行ったこともあるし」
「チートすぎるだろ」
真意はともかく彼の巨躯なら片手でも掴まれれば逃げられないような気がする。
僕はもう半歩距離を取った。
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