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「まあスマホ一個で不審者に立ち向かう勇気は褒めてやるよ」 「自覚あったとは」 「で、どうする? お前が明日引っ越すなら見逃してやるぜ」  よほど自信があるのか、男は引き下がる様子は微塵もない。  仮に通報できたとしても僕に話す時間は与えてもらえなさそうだ。立場が逆転してしまった。  けど、だからなんだ。 「無理だね」  僕が答えると男の唇が汚い曲線を描いた。手の中のトマトがまた少し変形する。 「強情だな」 「当たり前だろ」 「よくわかんねえけど、幼馴染ってのはそこまでして守んなきゃいけないもんなのかよ」  本当に不思議そうに男は尋ねた。 確かにただの幼馴染のために自身を危険に晒してまで行動する必要はないのかもしれない。  ただの幼馴染なら、だ。 「大好きなんだよ」  僕の声が夜に響いた。男も、芝生や木々も、何も言わない。  昔からよく彼女は悪い影に付きまとわれていた。  それは同級生であったり、見ず知らずの大人であったりと様々だった。綺麗な花にはいろんな虫が集まってくるものだ。  そのたび僕は彼女がその影に気付く前に払った。神様なんかじゃ彼女の願いは叶えられないだろうから。 「どこに引っ越したとしても、あいつには自分の住む町を好きになってほしいんだ」  虫の影すら知らぬまま、いつまでも美しく咲いていてほしい。  それが僕の願いだ。 
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