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弐 同棲(?)しちゃった
「あ、来たきた! まお子ー!」
「司、楓! おはよう!」
朝、家を出たまお子はすぐに友人達の姿を見つけて駆け寄ると、三人仲良く学校への通学路を歩いた。
「それにしても、昨日は大変だったね」
楓がポツリとラインハルトの件を話題に出す。
「あぁ、あのコスプレイヤーな。まお子、気を付けなよ?」
司も頷いてから、まお子の身を案じていた。
まお子はその事について、友人二人にどう切り出そうか悩んでいた。二人の、ラインハルトに対するイメージはきっと最悪だ。
(実は我が家に住んでいます…なんてこと言ったら、二人はどんな反応をするんだろう…?)
「それにしても魔王とか勇者とか、一体何だったんだろうね?」
「さぁ? ゲームのし過ぎで現実と区別がつかなくなったとか?」
「あははっ、こわぁ〜!」
うん、やはり最悪だった。すっかり痛いコスプレイヤー勇者となってしまったラインハルトに、まお子は可哀想だと心の底から思う。
その時。
「魔王!」
後ろからまお子を呼ぶラインハルトの声。三人が振り返ると、そこには黄色の可愛らしいランチバックを片手にこちらへ駆けてくるエプロン姿のラインハルトがいた。
「弁当を忘れてたぞ!」
せっかく師匠が作ってくれたんだから、とまお子を責める目付きでランチバックを渡してきたラインハルト。
「じゃあ俺、戻って師匠に風呂掃除の心得を学ばなくちゃだから」
「あ、うん…お弁当ありがとう…」
ラインハルトはまお子のお礼に頷いてから、すぐに回れ右すると角田家へ戻っていった。まお子達だけでなく、スーツを着た通勤中のおじさんも、犬の散歩中だったお姉さんも、その場にいた皆が勇者ラインハルトの登場に驚きを隠せずに固まっている。
「…変態度が上がってるじゃん…」
きっと、勇者の格好に加えてフリフリエプロンを着用しているので、司はそう言っているのであろう。
「まお子ちゃん、どういう事!?」
司の呟きを聞き、ハッと我に返った楓がすぐにまお子へ詰め寄った。
「それが、かくかくしかじかで〜…」
「ちゃんと説明して!」
楓が吠えた。おかしいな、『かくかくしかじか』で物事の説明を終える事が出来る法則がある筈なのだが…。
「…あの人、今うちに住んでるの」
まお子の説明に二人は驚愕した。
「はい!? 同棲!?」
「違うし。居候だし」
とんでもない事を言い出す楓に即座に否定するまお子。まお子は二人に何て説明しよう、と昨日の話を思い出していた。確か、愛子の考えた設定では…。
「名前はハルトって言って、外国に住んでる遠い親戚の人の息子なんだ。今は日本の文化を学びにうちでホームステイしてるの」
こういう設定だった筈。まお子の説明が終えると、司と楓は妙に納得した表情を浮かべていた。
「…じゃあ、あの格好は異文化交流を図っていたってこと?」
「日本といえばオタク文化…みたいな?」
なるほど、そう捉えるか。と、まお子が心の中で感心していると、二人の中でラインハルトへの警戒心は解かれたみたいだった。
「でも今日もコスプレしているところを見ると、異文化交流よりも趣味に走ってる気もするけど…」
「やってみたら気に入っちゃったんじゃない?」
ケラケラと笑う楓と司。やはりラインハルトは痛いコスプレイヤー勇者から抜け出せないようである。
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