弐 同棲(?)しちゃった

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 ラインハルトは元魔王であるまお子の心を入れ替えたという言葉の全てを信じているわけではなかった。けれど、昨日と今日の彼女を見て、まだ分からないが彼女ももしかしたら以前と変わったのかもしれない…なんて事を思っていたのだ。 (やはり魔王が、心を入れ替える筈がないんだ!)  ラインハルトは少し裏切られた気持ちになりながらも、彼に与えられていた自室に向かいエプロンを外し聖剣を手に取ると、転移魔法を使ってまお子の元へ転移する。今朝、あの黄色いランチバックにラインハルトの魔力を念の為少し込めておいたのだ。その魔力を辿ればいい。 「待っていろ、魔王!」  ラインハルトはその言葉を残して、角田家から姿を消したのだった。 「——はい、じゃあ今日の最後の問題はぁ……えぇと…戸田。この問題解けるか?」  数学の先生に指名された男子生徒が驚いた表情を浮かべた。 「え!? 俺!? 今日は角田さんじゃ…」 「戸田、前に出てこぉい」 「えぇ〜…」 (あ、あぶなかったぁ!)  まお子はドキドキしながら渋々前に出る戸田を眺めて心の中で謝った。 (闇魔法で先生を洗脳しちゃった…)  先生を洗脳し、今日の日付けを明日の日付けと勘違いさせたまお子。かなり(こす)い魔法の使い方をする元魔王であった。 「…いや…分かんないっす…」  と、戸田が黒板の前に立ちしょんぼりと肩を落とす中、危機を逃れたまお子は安心した顔で窓の外に目を向けた。 「ぶふぉ!?」  その瞬間、まお子は思いっきり吹き出してしまった。クラス中の視線がまお子に向けられる。 「あ、すみません。思わず咳が…ぶふぉ、ぶふぉっ」 「変わった咳だな」  少し引き気味に先生が答えた。何とか誤魔化せた事に安堵するものの、まお子は青褪めた顔でもう一度外をチラリと見る。もしかしたら見間違いだったのかもしれない…と、そう望みながら。  そこには…まお子のクラスは三階なのだが、窓の外に宙に浮くラインハルトの姿があった。やはり見間違いではなかったようで、まお子はとても焦っていた。 (あいつ何してんの!? だ、誰かに見られたら…!)  まお子がアワアワと慌てている間に、換気の為に開けられていた窓に足をかけて教室に入ってきたラインハルト。 (ひぃ〜! 教室に入ってきたぁ!?)  驚愕するまお子だったが、自分以外に誰も気付いていないようなのでラインハルトが認識阻害の魔法を使っていることが分かり、まお子はホッとした。 「魔王…今、闇魔法を使っただろ。何を企んでやがる!」  安堵したのも束の間、ラインハルトが聖剣を構えて剣先をまお子の喉仏あたりに突き付けてきたのだ。  ラインハルトの向こうでは先生が嬉々として難問の解き方を解説している。  授業中、席に着いて勉強をしているまお子の横に立ち、聖剣を構えるラインハルト。 (これ、どういう状況!?)  ちょっとした出来心で闇魔法を使って先生をマインドコントロールしたら、勇者が召喚されてしまった…。 (…うぅ、ズルしてごめんなさい…)  とりあえずまお子は命の危機に晒されていた。
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