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「…分かったよ。ハルトが納得するまで私を見張ってていいよ」
「言われなくともそうするつもりだが?」
さも当然といった顔で答えるラインハルトにまお子は若干の腹立たしさを覚えるが、ここはグッと我慢して大人しくやり過ごすことにする。これ以上面倒な事になりたくなかったからだ。
「とにかく…ハルトはもう帰って…」
「角田さん?」
まお子がラインハルトに帰宅を促していると、後ろから女性に声を掛けられた。驚いて振り返ると、少し離れたところに割とよく話す女性の教師が立ってこちらを見ているではないか。
まお子は慌ててラインハルトを壁際に寄せて屈ませると壁に両手を付いて彼を隠すように女教師に背を向けて立った。
「!」
すぐ目の前にラインハルトの顔…至近距離で青い瞳と目が合ってハッとした。まお子が自分たちの近すぎる距離感に気付いた時には向こうもかなり驚いているようで、瞬きするのも忘れて息を止めているようだった。
「そんなところで何してるの?——」
女教師が近付いてくる。
(こんなんでハルトを隠せるわけない! どうしよう…ハルトが…)
もしラインハルトがここで見つかったりなんかすれば、不法侵入者だ。まお子は焦って、緊張から心臓がドキドキしていた。
コツ、コツ、と教師の靴音が近付いてくる。まお子は、終わった…と、目をギュッと閉じた。
「——それも一人で」
女教師の言葉にまお子は顔を上げる。
(あ、そうだった。ハルトは今、認識阻害の魔法使っているんだった…)
まお子はラインハルトから少し離れて姿勢を正すと、安堵と緊張からの解放でへにゃ…とだらしない表情を浮かべるのであった。
「ちょっと、立ちくらみしちゃって…」
「えぇ? 大丈夫なの?」
まお子の誤魔化しの嘘に女教師は心配そうな顔をした。心配されてしまい、まお子は申し訳なさから困ったように笑って「昨日、寝不足で…もう大丈夫です」と答えると、女教師は辛かったら保健室で休むようにと言葉を残して、先を急いでいたのかその場から去っていったのだった。
「…焦ったー…」
「何をそんなに慌てているんだ…」
立ち上がりながら呆れた表情でまお子を見るラインハルト。
「もし先生にハルトが見つかってたら、逮捕されてたよ」
「逮捕…もしかして俺、また不審者か?」
返答する代わりにまお子が頷くと、ラインハルトは昨日と同じように落ち込んでいた。
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