弐 同棲(?)しちゃった

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(少しずつでいいから、こっちの常識を教えてあげないとな…)  まお子はラインハルトに憐れみの目を向けながらそんな事を考える。 (…そうだ!)  何やら思い付いた様子のまお子。 「…ハルト。私、もうすぐで学校も終わるからさ、校門の外で待っててよ」 「…まぁ、ここからの帰り道も分からないしな。俺には他に選択肢がない」  まだ落ち込んでいるラインハルトは元気のない声で答えた。 「そんなに落ち込まないの!」  まお子はラインハルトの肩に手を置き、明るい声で言う。 「ハルト、私がこの世界のこと教えてあげる。今日は帰りに少し寄り道して遊んで帰ろ!」 「あそぶ?」  ラインハルトは眉を顰めて聞き返すので、まお子は肩に置いていた手を離してそのままブイサインを作るとニコッと笑って言った。 「うん。私とファースト店にでも寄り道して、お喋りしようってこと!」  と、ここでまお子は慌てたように続ける。 「…やば! もうすぐ授業終わる!」  ポカンと呆気に取られるラインハルトだったが、まお子は構うことなく、校門を出た所で待っててと言い残すとその場から走り去って行ってしまった。  一人ポツンと残されたラインハルト。 (…何なんだ、昨日からあいつは…)  数日前まで自分を殺そうとしていたくせに…改心しただの、敵である自分とお喋りしようなどと言うまお子に、ラインハルトは振り回されている気分だった。 (昨日も思ったけど、あいつって笑顔が可愛……いやいや、何を考えているんだ、俺!!)  ラインハルトの知っている魔王という魔族の女は、残酷で傲慢で自己中心的な考えを持つ支配的な女だった。彼女がいる限り、人類の未来はない…と、ラインハルトは本気でそう思っていた。 (それなのに、今の魔王は…)  思い出されるのは、つい先ほどの出来事。突然自分を無理矢理屈ませたかと思えば、何故か顔をグッと近付けてきて…。  すぐ目の前に、彼女の顔があった。驚きすぎて身動きなんて取れなかった。勇者ともあろう者が情けない…。自分を見つめる彼女のクリッとした大きな目には、まるで石化魔法でもかけられたかのように固まる自分の姿が映し出されていたのだ。 「……くそ」  ラインハルトは悪態をついて、出口を探す為にまお子が去って行った方向に背を向けると別の方向へと歩き始める。 「…なんか調子狂うな…」  顰めっ面な彼の耳が赤くなっていることは、まだ誰も…本人すらも気付いていないようだった。
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