弐 同棲(?)しちゃった

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「私の周りの人たちを大切にしながら今を懸命に生きる」 「…それが償いとでも言うのか?」  ラインハルトはまお子の純真さを認めたくなくて、彼女の粗探しをしていることを自覚していた。けれど、まお子を認めるわけにはいかなかった。勇者である自分がまお子を許してしまったら、今まで死んでいった者たちが浮かばれない…そう思ったからだ。 「そうじゃないけど…でも、ハルトに何て思われようと私は今世こそ真っ当に生きてみせるよ。私だって…幸せになりたい」 「………」  ラインハルトは何も言い返せなかった。戦争だったのだ。ラインハルトが大切な人たちを失ったように、魔王だったまお子も同じように…そう気付いたから。  すっかり暗くなってしまった雰囲気を変えるために、まお子は苦笑いを浮かべながら話題を変えることにした。 「…あっちの世界とは食も文化も違いすぎるから、ハルトはこっちに来て大変でしょ?」 「ん…まあな」  ラインハルトも切り替えたのか、素っ気なくもそう答えて再びバーガーにかぶり付くのを再開させていた。 「だから私が少しずつこっちの世界のことを教えてあげる……ハルト、口にソース付いてるよ」  まお子に指摘されて、ラインハルトは慌てたように手の甲で口を拭う。 「あー、そっちじゃない。反対、反対」  ラインハルトはまお子の言葉に則りさっきとは反対側を手で拭った。 「もう少し下、違う…そこじゃない…あぁ、もう!」  先に根を上げたのはまお子の方で、彼女はもどかしそうな顔で笑うと少し腰を上げてからラインハルトの口元に手を伸ばす。 「ここだってば!」  そしてその細い指で、ラインハルトの口元に付いていたソースを拭ったのだった。  まお子の指がラインハルトの唇に少し触れてしまった瞬間、ラインハルトは勇者さながらの俊敏さで素早く立ち上がり椅子から飛び上がるとアクロバティックな動きで後方へと着地する。そして、警戒した顔付きでまお子を睨んだ。まるで威嚇する猫のようだった。  突然、曲芸のような動きを見せたラインハルトに周りの客達も驚いて、そして思わず拍手を送る者もいる。まお子も非常に驚いてしまい、目を丸くしてラインハルトを呆然と見つめていた。 「お、俺に気安く触るな!」  と、顔を真っ赤にさせて睨みながら言うラインハルトに、平常心を取り戻したまお子は吹き出しそうになるも我慢して耐える。 (ハルトのこの過剰な反応…もしかしてこの人、今まで恋人なんて出来た事ないんじゃない?)  同じく、前世も含めて今世も恋人ひとり出来た事のないまお子は、ラインハルトの(うぶ)な姿を揶揄うような気持ちでニヤニヤと笑った。自分のことは棚にあげる元魔王だった。
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