弐 同棲(?)しちゃった

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「まぁまぁ、深く考えないで!」  まお子自身も何故なのか解明していないのだ。と、いうよりこの17年間は自分だけが魔法を使える事に何の疑問も持たず生きてきたまお子だった。そこをラインハルトに突かれるのは、何となく避けたかった。 「とにかく、絶対に私たちが魔法を使える事は周りの人に知られちゃダメ!」 「…分かった」  ラインハルトは頷いて、バーガーの最後のひと口を飲み込んだ。 「あとは…そうだね。魔法がない代わりに『法律』ってものがあって、それが私たちの身を守ってくれる役割をしてるよ」  それからラインハルトは、まお子からこの世界の常識的な情報を学んだ。民主主義社会、義務教育…など、この世界の住人たちは当たり前に権利を有し学ぶ機会を与えられる。そして将来は自由な道を選択し、自分らしく生きていく。 (…すごいな。まるで夢のような世界だ)  ラインハルトはそう思って、羨ましい、とも思った。彼からすればこちらの世界が異世界なのだ。もし、自分がこの世界で生まれていたら…なんて事を頭の片隅で一瞬でも考えてしまうのは仕方のないことだ。 (もし、俺たちの世界もこうなら…きっと救われた人たちはたくさん居たはずだ)  貧民が故に下働きにしかなれなかった友人、字が読めないから畑を耕すしかなかった親戚の兄、女だから売られるように嫁に出されていった隣に住んでいた女の子。  ラインハルトも決して裕福な家の出ではないが、聖剣に選ばれたことで彼の人生は激変した。聖剣に選ばれたから、勇者になる。それは当たり前のことであり、ラインハルト自身もとても誇りに思っている。だが…。 (…聖剣に選ばれていなかったら…俺は、俺が本当にやりたかったことは…)  つい、聖剣に選ばれる前の幼い自分が思い描いていた夢を思い出してしまった。すると何となく、目頭が熱くなる。 「魔王。これからも少しずつでいいからこの世界のことを教えてくれ」 「うん、そのつもりだよ。また寄り道しようね!」  元々ラインハルトは生真面目な性格だからか、まお子の話を終始真剣な表情で聞いていた。 「…あと、」  ちょうど食べ終わったので、まお子が片しながら帰り支度を整えていると、ラインハルトがいつもより小さな声で言葉を続けた。 「俺に字を、教えてくれないか?」  この世界のことを、ラインハルトはもっと沢山知りたいと思ったのだ。まお子はぱぁっと顔を明るくさせて答える。 「もちろん!」  いつか自分達のわだかまりも解けて仲良く出来たらいいな、なんて事を考えながら笑った。  帰宅すると愛子が待ち構えていた。ラインハルトは冷や汗をかきながらも、師匠のお怒りであろうお言葉を賜りに彼女の元へ向かうと、愛子から何やら手渡された。 「? これは…?」  ラインハルトは手の中の物を見つめながら思い出す…。そう、まお子がよく手に持って扱っている…。 「スマホじゃん」  隣からラインハルトの腕に寄りかかるように覗き込んできたまお子が言った。 (またこいつは…距離が近い!)  思わず顔が熱くなるラインハルトだが、師匠の前で取り乱した姿は見せられないので何とか平静を保つ。
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