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「さっき慌てて買いに行ったのよ。これからはちゃんと連絡をするように。ハルトくん、外出する時は一言行ってくれないと、心配するでしょ?」
「すみません…」
あの時のラインハルトは魔王を討伐することに頭がいっぱいで、そこまで気が回らなかった。しゅんと肩を落とすラインハルトの手から、まお子がスマホを奪った。
「あ、おい…!」
ラインハルトが咎めた目でまお子を振り返ると…。
「ハイ、チーズ!」
カシャッ。
何やらまお子が至近距離で顔を隣に寄せてきたかと思えば、スマホから謎の音が発生した。
「!? !? …!?」
近すぎる距離とか、気安すぎる態度とか、謎の発生音とか、師匠に賜ったスマホで一体何をしたのかだとか…色んな疑問が一気に溢れてきてラインハルトの頭は追いつかない。
「これをこうして…えぇと、こうだ!」
彼が混乱して身動き出来ないうちに、まお子は更にスマホをいじっていて…。
「見てハルト。今撮ったツーショットを待ち受けにしましたぁ」
と、満面の笑みでスマホの画面を見せてきたまお子。ラインハルトが目を向けると、そこには自分とまお子の顔が切り取られた画像があった。
「なんだこれ!?」
自分の顔が…この小さな箱の中に入っているだと!? と、驚くラインハルトの横で愛子が「あら、二人とも仲良しさんで可愛い〜」と和やかに微笑んでいた。
「ロック画面も私たちのツーショットでぇす」
「ふ、ふざけるなぁ!」
ラインハルトは真っ赤な顔で吠えた。
(これだけ見れば、まるで俺と魔王が仲が良いように見えるじゃないか!)
「元に戻せ!」
「やだよーん」
まお子はふざけた返事をしながらラインハルトにスマホを返すと、逃げるように二階の階段へと向かう。
「早く字を覚えて、自分で変えればいいでしょ?」
なんて事をひょっこり顔を出してまお子が言うものだから、ラインハルトは怒ってまお子を追いかけた。すると彼女は逃げ足早く自室へと逃げ込みラインハルトの手から逃れたのだった。
今一歩のところで取り逃したラインハルトは悔しそうな顔で、今しがた閉められたまお子の自室の扉の前に立っている。
ラインハルトは手に持つスマホを持ち上げて、自分とまお子が映るロック画面を見つめた。
「…おい、魔王」
「なに? 今、着替え中ー」
「っ…俺はこれからもお前を見張るぞ。やっぱりお前のことを信用出来ない。勇者は魔王を倒す者、それが俺の使命であり、俺だ」
まお子からの返事はない。けれど、ラインハルトは構わずに続けた。
「でも…今日は、ありがとな」
すると、まお子の自室の扉が開き、着替え終えた彼女が顔を出す。
「じゃあ…今晩のおかずの唐揚げ、一個私にちょうだいね」
ラインハルトはまお子の顎をガッと片手で鷲掴みにして、絶対零度な目で見下ろした。
「調子に乗るな。唐揚げは俺も楽しみにしてるんだ」
「ふぁい…」
何だかんだで仲良くなった、二人であった。
勇者ラインハルト、待ち受けとロック画面がまお子とのツーショットという呪われたスマホを手に入れ、装備する。この呪いを解くには、ラインハルトのレベルがまだまだ足りないようだ…。
—弐 同棲(?)しちゃった・終—
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