弐 同棲(?)しちゃった

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***弐のおまけ*** (ショート)S『ラインハルトは見た!』 「今夜にかけて雷雨だって」 「明日の朝には止んでるといいなぁ」  リビングで寛いでいる藤孝と愛子がテレビの天気予報を見ながら会話していた。  するとまお子が突然スクッと立ち上がり「私、そろそろ部屋に戻るね」と俯いた表情で言うと、リビングから出て行ってしまった。  ラインハルトはすぐにピンとくる。 (…魔王め、何か企んでるな!?)  嵐が夜に通り過ぎると聞いた途端、彼女の様子は変わったのだ。 (魔王は元々、闇魔法…それも雷を操る魔法が得意だったはず。もしかして…嵐の雷を利用して悪事を…!?)  胸騒ぎが起こる。自分は勇者として、どの世界の人類だろうと守る使命があるのだ。 「あらやだ…雨が激しくなってきたわね」  愛子がすっかり暗くなった窓の外を見つめながら言った。ラインハルトもそこへ目を向けると、大きな雨粒が音を立てて窓を叩いている。  その時、ピカッと空が光り大きな轟音が聞こえてきた。すぐ近くで雷が落ちたのだ。  かなりの音量にラインハルトは驚いて目を丸くする。しかし、藤孝と愛子は慣れた様子で何やら話していた。 「今の、中々に近かったわね!」 「停電しないといいんだけど…」  呑気な二人をラインハルトが何か言いたげな顔で見つめていると、それに気付いた藤孝が笑って言ったのだ。 「この()(おう)町は、昔からよく雷が落ちやすいんだよね」  だから、この町に雷を怖がる子供なんていないくらいだよ。と、続ける藤孝にラインハルトはますますまお子を疑った。 (あいつ、絶対にこの落雷と関係しているはずだ!)  そう確信を持ち、ラインハルトもリビングを出ると急いで二階の階段を駆け上った。向かう先は、まお子の部屋だ! 「魔王!」  遠慮なく女の子の自室の扉を勢いよく開けるラインハルト。彼女の部屋は電気など点いておらず暗い…そして、部屋にいるはずのまお子の姿が無かった。 (…どこにいるんだ…!?)  目を鋭くさせて部屋の中を観察していると、ベランダに続く窓のカーテンが僅かに窓の隙間に挟まっていることに気が付いた。  ラインハルトはそのカーテンの元へ向かい、窓を開けようと触れた時…。  ビカッと、轟音と共に強烈な光が視界を真っ白にした。外だ。今、この窓の向こう…ベランダで何かが起こっている!  ラインハルトは勢いよくカーテンを引き、ベランダで何が起こっているのか確かめようとした。  そこには…。 「雷よ〜、落ちてこぉい、落ちてこぉい…」  激しい雨風に晒されながらも、まお子が何やら雨乞いのような変な動きをしながら、黒い雨雲に向かって呟いていた。ラインハルトの存在には気付いていないようで、ヘンテコなダンスを踊り続けるまお子。  ビカッ!! 「きた、きたぁああ!」  空に雷が走ると、まお子は嬉しそうな歓喜の声をあげて…彼女の雷乞いダンスの動きが激しくなる。もはや、部族のそれだった。 (な、なんだこれは…俺は今、何を見ているんだ…!?)  驚愕するラインハルトを他所に、黒い積乱雲からついに落雷が起こった。その雷は、真っ直ぐにこの角田家へ落ちてきている。  すると、一瞬の出来事だった。あのつるりとした艶やかな黒い角で、まお子がその落雷を吸収したのだ。 (!?)  ラインハルトは見てしまった。まお子が…あの何の意味も持たなそうな角で落雷を吸収し、エネルギーに変換した瞬間を。 (…そうか。あいつは普段、雷を利用してあの角にエネルギーを溜め、そのエネルギーで魔法を使っていたのか…)  魔王とはいえど、もう彼女の身体はこの世界の人間なのだ。ああでもしないと、魔力を保持できないということなのだろう。 (…しかし…)  その為に、嵐のたびにあのヘンテコな踊りを踊って雷を呼び寄せていたというのか…。 「……ぶふっ!!」  頑張って耐えてみたが、ラインハルトは堪らずに吹き出してしまった。 (この姿はかなり間抜けで…笑える…これが『ウケる』ということか)  ラインハルトが『ウケる』の活用法を正しく理解している時、まお子はまだラインハルトの存在には気付かずに再び雷乞いダンスを再開させた。 「…くくっ…! っ、そっとしておいてやるか…」  ラインハルトは笑いで捩れる腹を何とか抑えて、そのままそっとまお子の部屋から退出するのであった。  ラインハルトは異世界に来てたったの数日で、この()(おう)町の落雷率の高さの謎を解明したのだった。 ******
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