壱 封印されちゃった

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壱 封印されちゃった

「魔王、お前の悪行もここまでだ!」 「ついに来たな人間ども…」  人類の生死をかけた最後の決戦。世界の半分を支配下に置き、人間たちを阿鼻叫喚へと陥れた最凶魔王の元に、ついに勇者一行が辿り着いたのだ。 「なぜ人を苦しめる? 人間と魔族、共に手を取り合う未来だってあった筈だろ!?」  勇者が訴えるように叫ぶと、魔王は嘲笑うかのように彼らを蔑む目で見据えた。 「手を取り合う? お前たち人間は、家畜と仲良く飯でも食うのか?」  魔王のその言葉は、魔族にとって人類は家畜と同じだということ。勇者は顔を歪めて、最後の望みであった魔王との対話を諦めた。 「…そうか。だったら、俺たち人間のために死んでくれ」  そしてゆっくりと聖剣を構える勇者。その表情は、怒りと憎しみと、そして悲しみが複雑に滲んでいた。 「死ぬのはお前たちの方だよ、人間」  魔王は余裕ある笑みを浮かべると、彼女が一番得意な闇魔法を空に撃ち放った。  すると空が血のように真っ赤へと染まり、向こうから黒い雲が立ち込み始めた。辺り一面が暗雲に包まれる。  勇者たちが緊張した面持ちで魔王の魔法に構えていると、その雲から轟音をたてて雷が落ちてきた。 「気を付けろ!」  勇者が仲間を案じて叫ぶが、不運にも仲間の一人に落雷する。天災を味方につけた魔王の無差別攻撃に勇者たちは苦戦を強いられていた。 「私が道を開くわ!」  勇者の仲間のうちの一人である聖女が叫び、その手に持つホーリーメイスを天へと掲げる。聖なる光が真っ赤な空に差し込むと、まるで浄化されるように本来の青空が顔を見せた。 「あの女っ!」  魔王は面白くない表情を浮かべて、聖女に向けて闇魔法を放つ。それを、魔術師が聖女を守るように前に出てきて魔法を跳ね返した。それだけでなく、一緒に魔法で作った鋼の縄が魔王を襲う。  なんてことのない拘束魔法だが、片手を縛られたことで一瞬の隙が出来てしまう。勇者はそこを見逃さず、追い討ちをかけるように魔王の元へ駆け寄った。 「これで終わりだ!」  魔王が慌てて振り返ると、そこには聖剣を振り上げる勇者の姿。 「……くそっ」  避けられないと悟った魔王は悔しそうに顔を歪めて…聖剣が彼女の胸を貫いた。  魔王の紫色の血液が聖剣の刃を伝って流れていく。 「…私は、死なない…!」  目の前の勇者を睨み付けて、魔王は叫んだ。 「例え今死んだとしても、私は再び蘇る!」 「なに?」  険しい表情で勇者が聞き返すと、魔王は死に際だと言うのに可笑しそうに笑い声をあげた。 「待っていろ人間! 次は必ず、お前たちを根絶やしにしてやるからなぁ!」  そんな誓いを立てるように、魔王は最後の力を振り絞って最期の闇魔法を放とうと…。 「…だったら、お前を殺さずに封印する」  勇者は魔王が魔法を放つ前に、封印魔法を展開させる。 「な、なんだと…!?」  驚愕する魔王。死であれば再び蘇る事が出来るが、封印となると手に負えなくなる。目を見開き勇者を見ると、その視界が強烈な光に包まれて——魔王は異空間にたった一人で閉じ込められたのだった。
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