参 魔王でちゃった

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参 魔王でちゃった

『オレ オマエ マツ』  帰りのホームルームが終わり帰宅準備をしているところまお子のスマホに届いた、ラインハルトからの迎えのメッセージだ。 (…なんか、どっかの森に住む猿系キャラのような口調のメッセージきた)  ラインハルトが角田家に身を寄せてから早一ヶ月。まお子に文字を教えてもらい、平仮名からカタカナまでを習得したラインハルトはこうしてメッセージを送れるほどスマホの扱いをマスターしていた。 「楓、準備できた?」  まお子が自身の学生鞄を肩に掛けて同じクラスの楓の元へ向かうと、彼女はいつもよりも暗い表情で笑顔を浮かべていた。 「あ…うん、出来たよ」 (…楓、元気ない?)  まお子は楓の異変に気付き、考えるよりも先に彼女に問いかける。 「楓、何かあった?」  すると楓の顔から笑顔が消えて、何故か傷付いた顔でまお子を見つめていた。 「…ううん、何もないよ!」  そしてすぐに取り繕う笑顔。 「そういえば私、用事があったんだ! ごめんけど、先に帰るね!」 「え、ちょっと楓…」  まお子の制止も聞かず、明らかに自分から逃げるように走り去って行ってしまった楓の後ろ姿を、彼女は何も出来ずにただ心配そうに見送ったのだった。 「あれ、楓は?」  司のクラスまで行き彼女と合流したまお子は神妙そうな顔をしていた。そんなまお子に尋ねる司。 「ん…なんか用事あるって」 「ふぅん?」  楓の様子は気になるが、まだ何も分からない状況で司に相談するのも変な話だ。まお子はとりあえず、一旦は自分の胸にしまっておく事にした。  司と共に校門の外で待つラインハルトの元へ向かった。 「…きたか」  まお子を待ち構えていたラインハルトが、彼女たちの姿を見て呟くように言った。 「お、ハルト! 今日も来てんのかよ」 「あぁ」 「ハルトさーん! 今日も相変わらずの勇者! ばいばーい!」 「じゃあな」  まお子たちが彼の元に到着するまでに、帰宅する何人もの生徒たちから声をかけられるラインハルト。  相変わらずのコスプレイヤー勇者なラインハルトだが、一ヶ月もすれば周りの者たちもすっかり見慣れてしまい今では『勇者に強い憧れを持つ少し変わったイケメンお兄さん』として皆に親しまれていた。 「ハルトお待たせー」 「? カエデの姿がないな?」  すぐに楓の不在に気付いたラインハルトに、まお子は苦笑を浮かべてやり過ごすことにした。 「ハルトさん、毎日暇なの?」  そんな中、すっかりラインハルトと仲良くなった司が彼を肘で突きながら揶揄うように言った。 「暇なわけあるか。俺は師匠の厳しい指導の元、日々スキルの鍛錬をしている」 「ハルト、唐揚げ作れるようになったんだよねー」  ムッとした表情で司に言い返すラインハルトの隣で、まお子が呑気に笑いながら援護射撃を放った。 「すごいじゃん、今度食わせてよ」 「お前の言葉遣いが綺麗になったら食べさせてやる」  そんな平和な会話を繰り広げながら三人は帰路に着くのであった。
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