参 魔王でちゃった

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 ラインハルトはこの現代社会である異世界生活にもやっと慣れてきたようで少しずつ順応していっていた。  愛子から主夫スキルを叩き込まれているラインハルトは、ついに『一人でおつかい』が解禁されたのだ。  ある程度の文字が読めるようになってきたラインハルトは先日、愛子から商店街にあるスーパーへのおつかいクエストを与えられた。彼は何とかそのクエストをクリアし、晴れて及第生として認められたのだった。  初めて古代龍(エンシャント・ドラゴン)と対峙した時ほどの緊張感であり、愛子から褒められた時はかつての仲間たちとキングゴブリン率いるモンスターウェーブから一晩かけてとある村を守り抜いた時と同じくらいの達成感があった。  と、いう話を自慢気に司に聞かせるラインハルト。  司は、ラインハルトは設定に忠実なコスプレイヤー勇者だと思っているので彼の垣間見せる思い出の冒険譚は彼の妄想の産物なのだと思っている。  だからそこはスルーして、それよりも気になることを指摘した。 「婿じゃん」  司はケラケラ笑いながら続ける。 「まお子、羨ましーい。未来の旦那ゲットじゃん」 「ちょっと、やめてよ〜」  司はよくこういって自分とラインハルトのことで揶揄ってくるので、まお子は少しうんざりしていた。  でも司がそう揶揄うのも仕方のない事だった。ラインハルトは今こうしているように、初めて学校に現れた日からほぼ毎日まお子を見張りに下校時間に迎えに来るのだ。  今ではすっかり、ラインハルトはまお子の彼氏なのだと周りから認識されており、それに気付いていないのは当の本人たちだけだった。平和な国で過ごす少年少女たちは、まさかこの二人が過去に殺し合っていた仲など知る由もない。 「——おい」  ラインハルトが突然、まお子の肩を抱き寄せた。  まお子が驚いていると、前からこちらへ向かってきていた自転車に乗った男性が彼女のすぐ脇を通り過ぎていく。 「ボケっとするな。ちゃんと前を見て歩け」  自転車とぶつかりそうになっていたまお子を助けてくれたらしい。 「う、うん。ありがと」  ラインハルトの手はすぐにまお子の肩から離れて、一定の距離を保つ。  いつもは自分を見張るといって憎まれ口を叩きながら付き纏ってくる面倒なラインハルトのくせに、たまにこうして頼り甲斐というか優しさを見せてくるからその度に戸惑ってしまう。 (なんか調子狂うんだよなぁ…)  まお子は複雑そうな表情で、司と楽し気に会話するラインハルトの横顔を見つめていた。
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