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帰宅していると、まお子のスマホに愛子からメッセージが届いた。
「…ママが買い忘れたもの、帰りに買って来てだって」
まお子が呟くように言うと、突然やる気に満ちた表情でラインハルトが反応した。
「俺の勇姿をその目に刻む機会をやろう!」
「——で、スーパーに到着したわけだけど…」
商店街にあるスーパーに到着したまお子達。
「ツカサめ…あいつ、散々俺を馬鹿にしておいて来ないとは…」
まお子の隣では、悔しそうな顔でラインハルトがそう呟いていた。どうやら彼は、自分を暇人扱いする司に、習得したばかりの『おつかいスキル』を披露し見返してやりたかったらしい。しかし、興味のない司はスーパーの前で別れてサッサと帰って行ってしまった。
「私が見てるからいいじゃん〜」
宥めるように言うまお子に、不機嫌なラインハルトは複雑そうな表情を浮かべてから…納得したのか頷いて買い物カゴをひとつ手に取ったのだった。
「あら、ハルトちゃん」
まお子とラインハルトが店内を歩いていると、ウィンナーの試食コーナーに立つ中年の女性が声をかけてきた。
「今、焼き上がったところだから試食していってよ!」
「あぁ、頂こう」
ラインハルトは慣れた様子でその女性から爪楊枝に刺さったウィンナーを受け取った。まお子の分も用意されており、彼女も慌てて受け取っていた。
「うまいな。焼き加減が絶妙だ」
「うふふ、ありがとう」
ウィンナーの試食の感想を述べるラインハルトと、それを嬉しそうに笑いながら聞いている女性。まお子がそんな二人を眺めていると、今度は魚売り場コーナーの中年の男性がラインハルトに話しかけてきた。
「あれ、今日は愛子ちゃんと一緒じゃないの? 代わりに娘さんと来てるのか…いいねぇ、若い二人で放課後デートってやつかい?」
揶揄う男性にまお子は真っ赤な顔で否定するも、『デート』の意味を知らないラインハルトは無反応だった。彼は知らない単語は、こうしてその場では無反応を貫き家に着いてから調べるようにして学習している。
「あ、ハルトくん。今日こそこのサーロインステーキ肉、買ってかない?」
今度は肉売り場コーナーの若いお兄さんだ。ほぼ毎日、愛子と共にこのスーパーに訪れるラインハルトはスーパーの従業員達と仲良くなっているらしい。
(ハルト…めちゃくちゃこの世界に馴染んでるな…)
まお子は生まれも育ちも間桜町の自分よりもこの町に馴染みつつあるラインハルトの対人スキルに心の底から感心したのだった。
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