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目を丸くするまお子に、楓は絶望した顔で言った。
「…別れたいって話したの。そしたら、その写真をネットにバラまかれたくなかったら、陽くんのお友達と会えって…そうしたら別れてやるって脅されて…」
ざわざわ、まお子の中で何かが蠢いていた。
「本当はもう会いたくもなかった。でも、もし写真を流されたらと思うと…怖くて…」
楓は恐怖に体を震わせながら続ける。
「さっきも陽くんの友達が居る…ヤリ部屋に連れて行かれそうになってたの…まお子ちゃん達が来てくれなかったら、私、今頃どうなってたか…っ」
その瞬間、穏やかだった筈の夕方の空に怒声のような轟音が鳴り響いた。
楓はあまりの大音量に驚きを隠せず固まり、そして後からやっとその音が落雷の音なのだと気付いた。
何故なら、明るかった部屋は停電してしまい薄暗くなり、窓の外がピカピカと光っては次第に激しい雨が降り始めたから。
天気予報では快晴だった筈だ。突然の豪雨に楓は首を傾げた。
「す…ごい音だったね…。予報では今日、ずっと晴れだって言ってたのに突然天気が崩れるなんて…」
驚きでまだ心臓がドキドキと忙しなく鼓動する中、楓はまお子に声をかけながら隣に座る彼女に目を向けた。
「……まお子ちゃん…?」
薄暗い部屋で、楓はまお子の表情が良く見えなかった。いや、そんな事はおかしい。他の家具などはちゃんと見えるのに、何故かまお子の姿だけが靄がかかったように見え辛いのだ。
楓は思わず目を擦ってから、再度まお子に目を向ける。
「…楓。私の友達を守る為なんだから、仕方ないよね…?」
「え?」
まお子の言葉の意味が分からず楓が聞き返した時、部屋の扉が勢いよく開いたかと思えば、ラインハルトが焦った表情でズカズカと中へ入ってきた。
「…来い!」
「えぇ!?」
かと思えば、ラインハルトは真っ直ぐに楓の元へやって来て彼女の体を無遠慮に横抱きにすると、楓を抱えたまま脱兎の如くまお子の部屋を飛び出した。
訳が分からず混乱する楓だったが、ふと目に入った窓から見える外の風景に言葉を失った。
叩きつけるような激しい雨、止まない落雷…そして…。
(…空が、血みたいに真っ赤だ…)
停電で暗くなった階段の下には、心配そうにこちらを見上げる愛子がいた。ラインハルトは愛子の隣に楓を立たせるように下ろすと、すぐに上を見上げた。
階段の上にはいつの間にかまお子が立っていた。楓はまお子の名前を呼ぼうとしたが、蛇に睨まれた蛙のように身が固くなって声が出なかった。
「ねぇ楓、陽くんって今どこにいるー?」
まお子の抑揚のない声。何故だか、今、目の前に居るまお子は自分の知っているまお子ではないように思えて…生まれた時からずっと一緒にいる幼馴染の親友に、楓は初めて恐怖を覚えたのだ。
ラインハルトは胸元にぶら下げたミニサイズの聖剣を握ると、二つの魔法を唱えた。その瞬間、楓と愛子はその場で気を失うように眠りにつき、まお子とラインハルトだけが彼の作った異空間へと転移する。
何もない空間の中、二人は向かい合い…ラインハルトは顔を歪めた。まお子の今の姿が…姿形は違えど、異世界で戦ってきた魔王と同じ凶悪そうな大角を生やし黒い瘴気のような靄を身に纏っていたのだ。
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