壱 封印されちゃった

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 初めの100年間は、何て事なかった。魔王は人間を根絶やしにすることを諦めておらず、下等生物である人間がかけた封印魔法なんてきっとすぐにでも弱まり綻び始めるだろうと考えていた。 「くくく…この封印が弱まり始めた時が最後。私が復活したら、今度こそ人間を…!」  200年後。未だに健在な封印魔法に魔王も感心していた。この長い年月をしっかりと保てている魔法を放ったあの勇者を名乗っていた男は、下等生物の中でも特別な人間だったのかもしれない。 「しかし…それももう終わりだ。封印が解かれたらまずはあの勇者の血族を皆殺しにすることから始めてやろう」  300年後。まだまだ健在な封印魔法に流石の魔王も焦りを見せ始めていた。封印されてから今日まで魔王もただ黙って封印されていたわけではない。何とか封印を解こうと試行錯誤していたが、結局まだこの異空間に閉じ込められていることが結果であった。 「ふざけるな! あの男! 本当にこの私をこんな場所に永遠に閉じ込めるつもりだというのか!? ここから出たら、絶対に嬲り殺してやるからなぁ!」  500年後。魔王はまだ諦めていなかった。しかし、今までのような暴力ではなく、勇者が自分と対話しようとしていた事を思い出しアプローチを変えていた。 「勇者、話し合おう。ここから出してくれたらお前の家族は殺さないでいてやる。……いや、分かった。お前の国だけは見逃してやる。だから早くここから私を出せ。おい、聞いているのか!?」  700年後。流石の魔王も気が遠くなるほどの時間を一人ぼっちで過ごし、精神的に辛くなっていた。もう強がる気力も無くて、誰でもいいから話し相手が欲しいと切実に願った。 「この際、憎っくき勇者でもいい。誰か私と会話してくれ! もう一人は嫌なんだ、気がおかしくなる! …悪かった、私が悪かった! もう絶対に人間を殺さない、だから誰か…誰か現れてくれ!」  900年後。 「うわぁあん! ごめんなさぁい! 私が悪かったです! もう人間を殺したり、根絶やしにしようだなんて考えませんからぁ! だから許して下さい! ここから出してぇ! もう寂しいのは嫌だぁ!!」  1000年後。 「…どうして私はあんな事をしてしまったんだろう…。始まりは私の家族を人間に討伐された事がキッカケでした。家族を失った私は人間を憎み……憎しみは、また新たな憎しみしか生まないのに、私は…。ごめんなさい。家族を失った悲しみと怒りをあんな形で人間にぶつけた事は間違いでした…」  魔王は1000年かけてやっと、自らの過ちを認め猛省していた。
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