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両側から若い男性に支えられている社長の下半身が、魚のように見える。
暗闇の中、目を凝らすがすぐに店に入ってしまい、見えなくなった。
「ま、気のせいだろ」
気を取り直し、駅へと向かう。
店の裏口を照らす明かりしかなく、暗くてよく見えなかった。
それに一瞬だったし、見間違いに違いない。
もしかしたら人魚の肉なんて食べたから、そういう幻を見たのかも。
それにしても諦められず、体調が悪いのを押してまで来るとは。
けれどそこまで社長があれを食べたい気持ちはよくわかった。
「次はいつかなー」
さっき食べたばかりだというのに、早くも人魚の肉が食べたくなっていた。
翌日、お礼の品を持って会社を訪れたが、社長は不在だった。
なんでも、入院していつ退院できるかわからないのだという。
見舞いに行きたいと言ったが、断られた。
あの日の様子からしてよほど悪い病気が見つかったようで、回復を祈る。
しかしやはり、あれが人魚の肉というのはただの触れ込みだろう。
本当に人魚の肉ならば、社長が病気になったりするはずがない。
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