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まるで決まらない心のように、手の中で缶を弄んだ。
「もし、オマエにしかできないことがあるんだ、とか頼んだら、やってくれるか」
彼が承知してくれなければ、恋人の命はもうすぐ尽きるのだとわかっていた。
それでもどこかで、嫌だと断ってくれと願ってしまう。
俯いていた顔を上げると、眼鏡のレンズ越しに見えた彼は真剣な表情をしていた。
「ほかならぬ君の頼みだ。
どんなものでも承知するよ」
重々しく彼が頷く。
……ああ。
どうしてオマエは、そんなにもいいヤツなんだ。
だから俺は、オマエとの時間を失いたくないのに。
「……じゃあ。
恋人のために死んで、くれ」
自分からでた声は緊張からか酷く掠れ、震えていた。
人魚の肉を食べれば、不老不死になるという。
だから俺は、恋人に彼の肉を食べさせようと思っていた。
「いいよ」
まるで今日の夕食リクエストを承知するかのごとく、軽い調子で彼が答える。
それは俺の考えを知っているかのようだった。
「ほんとにいいのか!
俺は死ねと言ってるんだぞ!」
つい、彼に怒鳴っていた。
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