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断ってくれれば彼を殺さない口実ができる。
彼を殺すなんて恐ろしいことをしないで済む。
「いいんだって。
君の釣り上げられたとき、本当ならどこかの研究機関にでも売られて死んでいるはずだった。
でも君は僕に人間世界の話をしてくれ、人間の食べ物を食べさせてくれた。
しかも、友達とまで呼んでくれる。
そんな君に、報いたんだ」
彼の手が、俺の頬に触れる。
そのとき初めて、自分が涙を流しているのに気づいた。
「それに君が、こんなに悩んでくれたってだけで十分だよ」
俺と目をあわせ、にっこりと彼が笑う。
それでようやく、決心がついた。
しかし、いざ殺そうとすると手が震える。
そんな俺を見かねて、彼は自分の首を掻き切ってくれた。
「ありがとう。
愛してる」
それが、彼の最期の言葉だった。
どこの肉が効果があるのかわからないので、漢方ではだいたい効能のある肝と腹の肉を切り取り、持ってきたクーラーボックスへと入れた。
「本当にすまない」
残りの死体を、彼の希望どおり海へと流す。
今度生まれ変わったら、人間になれるようにと祈った。
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