6人が本棚に入れています
本棚に追加
「これ。
君の友達の肉だよね?」
彼の指摘で、背中が大きく震えた。
「そんなこと、あるわけねーだろ。
だいたいなんで、俺が人間の肉なんかオマエに食べさせるんだよ」
誤魔化して見せながら目が泳ぐ。
「人間じゃなくて人魚の肉、だよね?」
一瞬、心臓が止まった。
どうして彼は、知っているんだ?
「前にね、君が海辺で誰かと話しているのを見かけた。
お酒を飲んでて、本当に楽しそうだったよ。
声をかけようと近づいて、相手がただ者ではないのがわかった。
だから僕は、知らないことにしたんだ」
恋人が俺と友人が話しているのを見ていたなんて知らなかった。
しかもそんな、気を遣わせていたなんて。
「これはあの、彼の肉だよね?
だったら君が、食べるべきだ」
しかしそれと、この肉を俺が食べるべきだというのがわからない。
「これを食べれば病気が治るんだぞ?」
そのために俺は友人の命を奪い、肉を手に入れてきた。
なのになぜ、頑なに恋人は断る?
「そうだね。
でも僕は、死ぬよりも忘れられるのが怖い」
最初のコメントを投稿しよう!