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会員限定のコース
その店では人魚を食べさせてくれるらしい。
ただし、会員のみ。
僕には縁のない話だと思っていたが――。
その日、訪れた取引先の社長は具合が悪そうだった。
「大丈夫ですか」
「あ、ああ」
社長がグラスに注いでごくごくと水を飲み干す。
僕がここに来てもう三杯目。
なぜかやたらと水を飲んでいる。
「なんか、妙に喉が渇くんだよね……」
彼はまたグラスに水を注ぎかけたがそれすら煩わしくなったのか、二リットルのペットボトルに直接口をつけた。
「あの。
言いにくいですが、糖尿病とか……?」
喉が渇くなど、それくらいしか思いつかない。
「先週受けた健康診断では、まったくの正常値だったんだけどね。
でも、やっぱりそう思うよね。
病院行くか……」
社長は気が重そうにため息をつき、また水を飲んだ。
「はい、行ってきてください。
社長には長生きしてもらわないといけませんから」
「それで末永くお取り引きを、ってか」
「はい」
「言うね、君も」
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