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廟の中に再び足音が響く。
それはやがて扉を開く音に繋がり、土を踏む音に代わり、少しずつ遠ざかって行った。
ザフィーラの耳の奥で、彼の声が繰り返す。
――私を助けなければ、よかったね。
この声にだけは何か感情が滲んでいたが、それがどんなものだったか考える余裕はザフィーラにはない。
胸の奥で怒りが渦巻いて止めようがなかった。だけどあの男に向けるものではない。自分に向けるものだ。
(……助けなければ?)
しかしザフィーラは助けてしまった。
だから本当は彼のせいではない。分かっている。全部、ザフィーラのせいだ。
分かっていても、今度のザフィーラの目から涙は流れなかった。
泣いたときに抱きしめてくれる優しい腕はこの地上のどこにもない。誰にもすがることはできない。これからのザフィーラは一人だけで立って進まねばならず、自分の後始末は自分だけでする必要がある。それを理解してしまったから。
深く息を吸って、ザフィーラは廟の奥へ顔を向ける。ナーディヤの墓所がある方をもう一度見つめてから背を向け、出口へ進んだ。
先ほど一瞬だけ感じた軽やかな香りは、廟の中に濃く漂う香りにかき消されてもう残っていなかった。
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