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やがて大半の荷物を運び終えた頃。一つ息を吐いたザフィーラは、ずっと控えていたイバンに近づく。
「……あの人はどうしてるの」
「王子殿下のことをお尋ねでしたら、昨日ここをお発ちになりました、とお答え申し上げます」
「発った? どこへ?」
「マドレーへお帰りになられました」
イバンの言葉を聞いた途端、ザフィーラは頭を殴られたかのような思いに駆られた。
ザフィーラはイバンの言葉を意外だと思った。その、意外に思った自分にどうしようもないほどの嫌悪を抱いた。
愚かなザフィーラ。考える必要性を理解したザフィーラ。変わろうと決意したザフィーラ。
なのにどうしてここに来てまでザフィーラは、彼がまだこの地にいると思いこんでいたのだろう。
トゥプラクはマドレーの傘下に入った。彼の役目は終わったのだから、この地にいる理由はない。
王家の廟でザフィーラにすべてを告白したあれが餞別だった。彼が過去を振り返ることはないだろう。彼はトゥプラクとも、ザフィーラとも、もう無関係だ。
「そう……」
呟いてザフィーラはふと違和感を覚えた。
彼がイバンをわざわざ遣わせたのが少し妙に思えたのだ。
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