27人が本棚に入れています
本棚に追加
話の終わり。または、続きの始まり。
銀の月が波のないオアシスに浮かんでいる。
その光景のように静かに、吟遊詩人が詩を止めた。
しばらく余韻が残って静かなままだったが、その中で誰かが最初に手を叩いた。
続いてあちこちで拍手が起こり、歓声が起き、口笛が吹かれ、酒場の中は様々な音であふれ返る。
今日の吟遊詩人は「当たり」だった。
立ち上がって頭を下げる彼の元には続々と祝儀が集まる。床を転がるコインも多いので、これは拾うのが大変だろう。
「さて、今日はそろそろ仕舞いだ。気を付けて帰んな」
辺りが落ち着きを取り戻し始めたところで酒場の主人が声を張り上げると、大半の人々は名残惜しそうにしながらも素直に従う。だが、どこにでも気が大きくなる人物はいるものだ。特に、酒が入ると。
「まだいいじゃねえか」
そう言って店主に詰め寄るのは赤ら顔の男だ。
「俺は全然聞きたりねえぞ」
こういう少々我が儘なお客に店主は慣れている。いつものように“相応に分かっていただいてから”つまみ出す必要があるかと腕まくりをしたのだが、今日は横から手助けが入った。
「そんなこと言わないの」
男の袖を引くのは妻らしき女性だ。
「この詩は長いんだから、途中で切るしかないでしょう?」
そう、女王ザフィーラの詩にはまだ先がある。
最初のコメントを投稿しよう!