逢着

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 扉を開けて中へ一歩入ると、外とは違う冷涼な空気が出迎えてくれる。こぽこぽという微かな音がするのは奥で水が湧き出ているためだ。都市の大きなオアシスからは離れているが、ここにもごくごく小さな水源がある。  ザフィーラはその水に持ってきた布を浸し、安置されていた小さな石の女神像を拭き上げる。隙間から入り込んだ砂を掃き出し、(こう)(くゆ)らせ、その場に膝をついて祈りの言葉を捧げると儀式は完了だ。  ふと思い出して青い玻璃の器に水を汲み、女神像の前に供える。中に届くわずかな光が水面を輝かせるのを見ながら、ザフィーラはうなずいた。 「うん」  そうして「ほら」と呟く。 「私だってちゃんと、来られたわ」  オアシスの都市で生きるものにとって砂漠は文字通り隣にあるものだ。いつ、砂の海へ出て行くかも分からない。そんな“その日”のための第一歩としてこの祠はうってつけの場所に建っている。  おかげでいつからだろう、十歳になったトゥプラクの子どもは神官に吉日を選定してもらい、ユシュ鳥に乗って一人で女神の祠へ向かうのがならわしとなっていた。
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