あんよは上手

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 いや、昨日はヤバかった。  当分ラーメンは見たくねえ。  まさか、佳奈が煽って来るとは思わんかった。    でも、食いきってやった。  完食したぜ!  野菜が富士山みたくなってる超デカどんぶりを店長さんが申し訳なさそうに持ってきた時はビビったけど。顔を真っ青にしながら完食した佳奈にもビビったけど。うぷうぷ言いながら近づくあたしらから逃げまくるアツシには笑ったけど。  ちゃんと謝れてよかった。  笑って許してくれた。  それに、佳奈がああいう言い方をしてまであたしの背中を押してくれた。つか佳奈が他人を小馬鹿にするような言い方をするの、初めて見た。 ホントにダチってありがてえ。おかげで、気合いが入った。  んで、店長さんにも大感謝だ。  今度は食レポしに行くかな。  もちろん、身体と心を万全にしてな!  次は賞金ゲットだぜ!  門倉、絶対見つけたる! 今日は天気がいいから、中庭あたりにいるはずだ。 ● 「おお~い、門倉あ~」 「あ、高梨さんこんにちは。……何か具合悪そうだけど大丈夫?」 「気にすんな。前向きな体調不良だ」 「あはは、何それ! とりあえずどこか座る?」 「助かる」  こういうとこ、なんだよな。  門倉のいいところ。  気遣いができて。  困ってそうな人間をほっとかない。    そうだ。  あたしも、いっつも優しくしてもらってた。  傘とタオルを貸してくれた、あの日も。  ナンパされて困ってたあん時も。  学校で会った時も。  どんな時も。  コイツはずっと、こうだった。   「あのさ……あの。あっちに行くのっていつだっけ?」 「ひと月後、終業式の日だよ。どうして?」 「見送りにいってもいいか? それに転校のこと、あたしちゃんと聞いてなかっただろ?」 「あー……ごめん。言わなきゃ、とは思ってたんだけど……言い出しづらくって。見送り来てくれるの、うれしいかも」  引っ越しとか転校、きっと言い出しづらいよな。  親友や仲のいいヤツと離れ離れになるんだから。  いや、あたしは違うか。 「おっきな旗振って見送るとこ、撮れ高期待できそうだしな!」 「撮るんかーい!」  門倉の口から聞かなきゃ、転校はただの噂。  そう思いたかっただけなのかもしれねえ。  「寂しく……なるな」 「そっか。そう言ってもらえると嬉しいし……寂しいな」 「あったり前だろ? あたしら……ダ、チ、……なんだから」 「そう、だね。友達と遠く離れるのって寂しいよね」  ダチって言った瞬間。  門倉が、友達って言った瞬間。  こめかみがズキズキした。  胸の奥がかゆくなった。  何だこれ。 「あーあ。子猫を見っけたら、これからどうすりゃいいんだよ」 「あ、その時はLINEしてよ。新幹線でタオル持っていくから。ナンパされて困ってる時も駆けつけるよ。連絡先、交換してくれる?」 「マジか! 言ったからには絶対来いよな!」  目の前に差し出されたスマホに。  門倉の言葉に。    顔が熱い。  体が熱い。  そういう風に言ってもらえることに、少しだけ特別扱いされてる気になってしまう感じに身体中が痺れた。  今は門倉の事を好きかって聞かれたら、わかんねえ。    でも、こんなに嬉しい。  胸が苦しい。  だけど。  その前に。  言いたくないけど。  答えを聞くのが怖いけど。  聞かなきゃなんないことがある。 「そういや、さ。彼女いるんだっけ? いたら連絡先交換とかダメだろ? ヤキモチ焼かせたら悪いしな。しっかし遠距離恋愛とか大変そだな。あたしは彼ピいねえからよくわからんけどさ」  バカか!  何でどさくさに彼ピいませんアピしてんだ!  下を向く。  目を閉じる。  期待すんな。  期待すんな! 「……好きな人はいるけど、彼女はいないよ。高梨さんが彼氏いないのは意外! モテるでしょ」 「イヤミか!」  肩のあたりが、背中が、気持ちがゾワゾワする。血の気が引いていく。  彼女はいない。  好きな人がいる。  彼女、は、いない。  スキナ、ヒトガ、イル。
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