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さよならの音
一ヶ月間の結論。
あたしは結局、門倉の事が好きだったんだってわかった。
でも。
ただ、それだけ。
好きな相手がいるんじゃ、どーしよもない。爽やかでイケメンで、腹立たしくなるくらいモテモテの門倉は、片思いしてんだってさ。
正直、羨ましい。
そんな風に思われてみたかった。
んだが。
顔を真っ青にして背中を押してくれた佳奈と、メガマシラーメン店の店長さんの名にかけて、最後まで頑張る。
『お前は俺の嫁じゃなかったのかよおおおぉぉ』とかベソかいてたアツシたちもよくわかんねえけど、結局は応援してくれたからな。
みんな、あんがとな。
あたしの気持ちのありったけを伝える。
みんなのお陰でめいっぱい、手紙が書けた。
新幹線のホームで順番待ちをするとは思わんかったけど。
泣きそうな顔で駆けこんできたこの眼鏡ちゃん、門倉先輩って言ってっから、一年か中坊なんかな。
……何やってんだ?
順番譲ったんだから、ちらちら振り返んなや。
全然喋れてねえじゃねえか。
ほれ。
「ひう?!」
「前向け。門倉はそっちだ」
肩を掴んで前を向かせた。
「ありがとう、高梨さん」
「あ……ありがとうございますっ!」
「いいよ。ちゃんと話さねえと後悔すんぞ?」
今、この瞬間の門倉に。
お前とあたしの毎日を輝かせてくれた門倉に。
言いたい事をぶつけりゃいい。今しか言えない、ありったけの気持ちを言えばいい。
やべ、鼻の奥がツンとして来た。
超耐えろ、頼むあたし。
………………ん。
あたしもやること決めた。手紙を書いたし、時間もねえからちょうどいい。
最後はきっちり。
あたしらしく。
「あ、あの! ありがとうございました!」
「何もしてねえっつの」
「高梨さん、やっぱり優しいね。雨の日の子猫の時から、ずっと思ってた」
ホームで曲が流れ始めた。
「優しかねえよ。門倉、あっちでも頑張れよ」
「うん、ありがとう。着いたらLINEするよ。あと、落ち着いたら聞いてほしい事もあるんだ」
「おけ。そのうちな」
泣きたくなるような。
そんな、さよならの音。
「時間だな。覚悟しろ!」
「え?」
「喰らえやああああぁぁっ!」
「わわわっ?!」
センベツの袋を押し付ける。
両手で押す。
下を向く。
泣きそうなんだ。
この一か月、我慢してきた。
でも、無理だった。
もう無理なんだよ!
「じゃあな!」
扉が閉まる瞬間、涙を拭いて顔を上げる。
「頑張れ! 元気でなあ!」
驚く門倉の顔を見ながら、大きく手を振る。
「頑張れ、頑張れ頑張れ、頑張れ、頑張れ……元気で、…………さよ…………なら」
さよなら、門倉。
さよなら。
あたしの、初恋。
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