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開けっぱなしの入口から、薄暗い部屋に、かさかさと娘達が入ってくる音がした。
「ただいま」
「ただいまー」
「戻りました」
「たっだいま〜」
「帰ったよ」
戻ってきたのは五女、八女、十八女と二十四女、三十女だ。このグループは本当に仲良しで。今日の食糧を抱えて部屋に入ってきた。
「おかえり。ありがとね」
まだまだ赤ちゃんの三十五女達の世話をしながら、姉達の働きを労う。わたしの子はほとんどが娘で、二人だけ生まれた息子は年頃になると出会いを求めて、さっさと独立していった。
「ねぇママ、そこのアブラヤ甘露店通りは、もう品薄よ。ナナさんとナミさんを見かけたもの……。軒並み潰されているんじゃないかしら。だから今日は、隣町まで足を伸ばしたの」
「あっちは、食べ物も沢山で、とっても環境がよかったわ!」
「そう……。この間の雨で雨漏りもするし、そろそろ引越すのがいいかもね」
仲良しグループは、わらわらと部屋の中にひしめき合っている姉妹達にそのことを伝え回る。
「どんなものか、あたし達も見に行くわ」
「私も。あなた達の道筋を辿っていくから大丈夫よ」
すぐに偵察に向かう十女と十二女に続いて、数名が部屋を出て行った。実に頼もしい娘達だわ。感心して部屋を見渡すと、働きもせずゴロゴロとしている娘もいる。まぁ、個性といえば個性なのだけれど。
しばらく待って彼女達が戻ると、ご機嫌な様子だった。
「結構、いい部屋も見つかったの。静かだし、いい感じ。ここよりも、暗さも確保できそうよ。ママ、引越すのが賢明だと思うわ」
「ほんと。じゃあ、そうしましょうか。みんな、準備して」
働き者の娘達は、赤ちゃん達をそれぞれ抱きかかえたり、残っている食糧を手分けして持ってくれる。ゴロゴロしていた娘達は何もせず、よっこらしょと気だるく歩き出した。
「じゃあ、行きましょうか。五女ちゃんを先頭に、みんなで行くわよ」
「はーい」
部屋の外へ出ると、視力はほとんどないのだが、晴天の空の眩しさを感じた。
だが──。
ふと大きな影が迫るのがわかった。雲が太陽を隠したか。いや、まさかこれは、最も恐れていた、あの巨大な影ではないか──。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ママ見てー!アリしゃんいっぱい歩いてゆ!」
「あら、健ちゃんほんと。お引越しかしらねぇ。何か運んでる、すごくラッキーね。こんな大移動に出くわすなんて」
「ママ見て!こっちは、てんとう虫いた!」
「お兄ちゃんはてんとう虫見つけたの? お、これはナナホシテントウね。こっちはナミテントウだ。てんとう虫は、アブラムシを食べてくれる益虫なのよー。アブラムシの甘露はアリの餌になるんだってね」
「ふーん!」
「ねぇママ見てぇ。 アリしゃん、潰してゆの。プチプチ、潰すの、たのちいねぇ。きゅう、じゅう、じゅういち……」
「おい健太!かわいそうだろ、やめ……」
「ふふ……たのちいねぇ。ほんとラッキー。……ママにもやらせて?」
<完>
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