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あたしゃあざらしのぬいぐるみ。
名前は昔つけられた気がするがとうに忘れた。
昔お店に飾られていた時…ある母娘さんに買われてそこのおうちに住む事になった。
はじめはよかったさ…。娘さんの遊び相手になってその時名前をつけられて。
でもな…人間とは飽きる生き物なのかそのうち見向きもされなくなった。
母親と大事にすると約束していたのにも関わらず。
人間とは身勝手な生き物じゃ…。
薄情者め!
真っ白な毛並みが自慢だっのにそのうち薄汚れて押し入れに入れられて…今では押し入れの住人。
このまま忘れられるのか…そのうち捨てられるのか…それはあたしゃにはわからん。
押し入れに放置されどれだけの年月が流れたか…。押し入れの中には箱に押し込められた服たちに日の目を見ない雛人形。
このまま忘れられ朽ち果てるのか…。
あたしゃ悲しい…。
ある日昼も夜もわからぬなかウトウトしていたら突然光がさしてきて小さな男の子がじーっとこちらをみていたが気にせずそのまま眠ってしまった。
体がふわふわ揺れていてそれで眠気が覚めたと思ったらビニール袋に入れられて外に連れ出されていた。
『びっビニール袋?!』
『あ…あたしゃ捨てられるのかい?』
『なんとむごい事を…』
捨てられると覚悟したはずがビニール袋でゆらり揺られてある一軒家にやって来た。
ただいまー!
バタバタと勢いよく靴を脱ぐ男の子と手を洗うよう声をかけるお母さん。
「きゅぴちゃんここにいてね」
袋ごと部屋に入れられたが…。
きゅぴ?
はて?
昔そうよばれていたような…。
【薄汚れたばーさんだな…】
どこからか声が聞こえた。
失礼なヤツだ!
【上だよ上!】
【くまのぬいぐるみがみえるだろ?】
よく見ると胸元に青いリボンをつけた茶色くて小さなくまのぬいぐるみが棚に座っていた。
【あんたか…奥さんの家から引っ越して来たのは】
ちょいと失礼なくまの話しではこの真新しい家の住人は夫婦とひとり息子さん。奥さんの実家から奥さんと息子さんが帰ってきたらあざらしのぬいぐるみもいっしょだったと。
奥さんはあの小さな娘さんだったのか…。
それだけあたしゃ年を取ったのか。
ビニール袋から出されたあたしゃ引っ越し早々冷たい水を浴びせられた。
冷たい!苦しい!
あたしゃあざらしだけどぬいぐるみだから泳げないんじゃよ!
冷たい水がだんだん温かくなってきた。
奥さんらしき人に液体をなすりつけられてあたしゃ泡だらけに…。
苦しい…これまでか…。
再びお湯をかけられ大きなタオルで体全体を拭かれ少しからだが軽くなった。
ふう…助かった…。
「きゅぴちゃんベランダで大人しくしていてね」
そのままベランダと言う場所に出されあたしゃそのまま太陽の下で昼寝をした。
ずっと暗闇にいたから眩しいけど気持ちいい…。
水分で重かった体も少しずつ軽くなってよく見たら白さが戻ってきている。
泣けてくるよ…。昔は真っ白なあざらしだったのさ…久しぶりの白さだうれしいよ。
【おっ!きれいになったな…ばあさん】
ベランダから部屋に戻ったら失礼なくまに声をかけられた。
【まあまあ…これからこの家の住人だ。仲良くしよーや】
それもそうじゃな。
くまは家族に『くまちゃん』と呼ばれていたがあたしゃ『くま公』と呼ぶことにした。
この家に突然引っ越していたあたしゃ毎晩息子さんと寝ている。どうやら押し入れにいたのを助けてくれたのは息子さんが『かわいそう』と訴えてくれたから…。
ありがとう坊ちゃん。
押し入れから日の目を見たあたしゃ幸せじゃよ。
ただ悩みもある。
それは寝ている坊ちゃんのよだれまみれになることじゃ。
お母さん…次のお風呂はいつじゃ?
次のお風呂が待ち遠しいぞ。
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