最終話:思わぬ朗報

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最終話:思わぬ朗報

―――それはまるで、オートガールのようなものではないか! 女中から洋食店のサービスの話を聞いて、ひゐろは唖然(あぜん)とした。 まさか、洋食店が競合になるとは! 時間とともに、仕事は変化している。 それを感じて、ひゐろはいっそう早く働きに行きたくなった。 中秋の名月が過ぎ、産褥期(さんじょくき)の横になる時間も徐々に減り、ひゐろの身体もずいぶん安定するようになった。 まずは夫に現状を伝えたいと思い、手紙をしたためた。 匡が生まれたこと。 母子ともに本郷の実家で、元気に過ごしていることなどを伝えた。 そして近々、小菅監獄に面会に行きたいと書いた。 書き終えるとひゐろは手紙を封じ、女中に投函するようお願いした。 その日の昼間、民子は縁側に(たらい)を持ち出した。 着物をたすき掛けして、(たらい)の中にお湯を注ぐ。 そして女中から匡を受け取ると、匡の足元からゆっくりと盥の中に浸していった。 匡は足をバタバタと動かしたが、お湯の温かさが心地よく感じるようになったのか、 しばらくすると、落ち着いてお湯の中に入っていた。 ひゐろは自室の窓から、その様子を黙って見ていた。 ―――夫に、沐浴をさせてあげたかったな。
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