65人が本棚に入れています
本棚に追加
第三話:警視庁の懸賞金の謎
「……夕刻に、何のご用ですか?」
ひゐろは、共同水道を使っていた近所の女にたずねた。
「この絵葉書の男、この家に出入りした男じゃありません?」
その女は、一枚の絵葉書を差し出した。
―――活動家 斎藤英太郎
右の者は市中で印刷物を配布し、社会主義活動を行った罪で指名手配中。追って犯人逮捕に引渡されたる殿方に五十圓の懸賞金を進呈 警視庁
……(指名)手配書だ。斎藤さんの写真と名前が書いてある。
犯人逮捕で警察に引渡したら、懸賞金を進呈するということだろうか。ひゐろはそれを見て、とても驚いた。この女は斎藤さんを捕まえて、懸賞金の五十圓を得ようとしているのか。
ひゐろは、絵葉書を近所の女に返した。
「うちに出入りしていた男は、確かにこの方に少し似ているかもしれません。けれども少し顔貌が違うように思いますし、この男より痩せている気がします。別人です」
ひゐろはきっぱりと否定した。
「それじゃ、出入りしていた男の名前は何とおっしゃるの?」
近所の女は納得しないようで、再びひゐろにたずねた。
「……さぁ、行きずりでしたから、名前も存じ上げません」
最初のコメントを投稿しよう!