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もし妊娠していたとしたら。斎藤はその現実を受け入れてくれるだろうか。
子どもを喜ばしいことだと思ってくれるだろうか。
斎藤の行方がわからないから、聞くことすらできない。
ひゐろは妊娠の可能性があることを看護師に伝えた。すると
「本日は内診を行います」と告げられる。
もちろん内診も、ひゐろにとっては初めてであった。
身体に緊張が走りながら、内診を受ける。
「おめでとうございます。風倉ひゐろさん、妊娠三カ月です」
産婦人科の医師は、ひゐろにそう告げた。
―――斎藤さんの子どもが私の身体の中に、息づいている。
その現実を、ひゐろは受け止めることにした。
万が一、斎藤がこの現実を受け止めてもらえなくとも、私生児でいい。
この子を育てようとひゐろは誓った。
なぜなら私にも一人の人間を生み出す力があり、私と生命が繋がっているのだから。
ひゐろはその足で、日本橋へ向かった。
露店が立ち並ぶ時間だ。書生が売っている絵葉書の露店をしらみ潰しにあたるしかないとひゐろは思った。
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