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第四話:真新しい下着を持って
ひゐろは居間に花代を通し、座布団を出した。
「……お仕事を終えたばかりでしょう?お茶を用意しますので、少々お待ちください」
「いいのよ。それより早く座って」
花代は立ちあがろうとするひゐろの着物の袂を引っ張り、座るように制した。
「先日、松山に逢いに小菅監獄に行ったのよ。すると、松山が斎藤さんを見かけたって」
「……まさか、小菅監獄で?」
「ええ。教誨所に集められた時に、松山が“斎藤くんに似た人がいるな”と思って目が止まったそうよ。それに気がついた斎藤さんが松山に軽く会釈をし、去って行ったようよ」
「斎藤さんが小菅監獄に……」
ひゐろは、絶句した。
すでに斎藤が逮捕されているから、露店で手配書の絵葉書は配布していないんだと思った。
「でも松山が『斎藤くんはチラシを配っただけなので、それほど重い罪には問われないと思うが』と話していたわ」
「そうだといいんですが」
ひゐろは再び立ち上がり、土間の方へ行った。
湯を沸かして、お茶を淹れはじめた。
一方、花代は部屋を見渡し、壁にかけてある斎藤の書生絣の着物を見つめた。
「斎藤さんは、やはりここで暮らしていたのね」
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