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「あの仕事は、いつでも復帰できるわ。元気ならね」
花代は立ち上がった。
「…さて、子どもがおなかを空かせているだろうから、そろそろ帰るわ」
「工場の帰りに、いつでも立ち寄ってください。銀座にも顔を出してくださいね」
「また遊びに来るわね」
ひゐろは玄関先で、花代を見送った。
その後ろ姿を見つめながら、自らの人生を思った。
まるで花代さんの姿を、追っているようだと。
翌朝、ひゐろは足立家に足を運び、手配書の絵葉書を返しに行った。
斎藤がすでに警察に捕まったことを伝えると、
「五十圓で買いたいものを考えていたのに」
と言い、悔しがった。捕らぬ狸の皮算用というのは、こういう人のことを言うんだなと思った。
その足でひゐろは、小菅監獄へ行った。
面会の申請を行うと、一般面会という形で斎藤に会えることになった。
警察官立ち会いのもと十五分であったが、それでもひゐろはうれしかった。
十五分ほど待っていると、奥から汗を拭きながらやってくる斎藤の姿が見えた。
斎藤はひゐろの顔を見て、汗を拭う手が止まった。
「……面会って、ひゐろさんだったのか!」
斎藤は、いささか痩せているように見えた。
ひゐろは、真新しい下着を包んだ風呂敷を差し出した。
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