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第四十六話:秋の日の出来事
「ミシンという機械があるのよ。それを使うと、あっという間に子どもの洋服が作れちゃうわよ」
「……ミシン?そんな機械があるの?」
「そうよ。機械を足で踏むと、縫い目がスイスイと進むの。米国製の小型ミシンで二十圓くらい、豪華な獨逸製のミシンなら七十圓くらいするわ」
やはり獨逸製は、豪華なのか。三吉兄さんが話していたように、対独為替が激落している影響は大きいんだろうなとひゐろは感じた。
「珠緒、私に七十圓のお金なんて、すぐに出せるわけないでしょう?」
「……まぁ…ね。でも世の中には、こんなに便利なものがあるというお話をしたかっただけよ」
珠緒に抱かれた匡は、手足をバタバタと動かした。
「……私はいつ結婚できるのかしら?これから師範の道を歩むから、そういうご縁はしばらくはなさそうね」
珠緒は、そう言って匡の顔を見て笑った。
「また、遊びに来るわね。ゆっくり横になって休んでね」
珠緒は匡をひゐろに渡すと、帰って行った。
その晩、ひゐろは匡とタマを抱いて寝た。
夫は勾留中だけれど、匡は順調に育っている。
しかも、相談ができる親や兄弟がいるし、友達もいる。
眠って食事ができる環境も揃っている。
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