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この不景気の中、十分幸せと言えるんじゃないかな。
ひゐろはそう思いながら、眠りについた。
翌日の昼頃のことだった。
「ごめんください!」
という女性の声がした。
ひゐろは、どなたがお越しになったのだろうと思っていたが、しばらくすると襖の向こうから女中の声がする。
「お嬢様、お客様です。お通ししても、よろしいでしょうか?」
「……どなた?」
ひゐろがたずねると、
「私よ。花代」
と襖の向こうから声がした。
「……花代さん?どうぞお入りになって」
ひゐろは花代を通した。
襖を開けるなり、花代は驚きの声を上げた。
「こちらがお子さんなのね!山口さんからお聞きしたわ。ひゐろさんに、子どもが生まれたって。男の子なのでしょう?」
ひゐろは花代に匡を渡し、顔を見せた。
「そうです。匡という名前で、夫がつけたのです」
「匡か。良い名前ね。斎藤さんらしいわ」
花代は匡の顔を見ながら、そう語りかけた。
「初めてのお産は、大変だったでしょう?驚きの連続だったのじゃないかしら」
花代は、ひゐろにたずねた。
「ええ。苦しいし、あまりにも長時間でびっくりしたわ。出産しながら、おにぎりを食べるとは思いもしなくて」
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