第四十六話:秋の日の出来事

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ひゐろの回答に、花代は吹き出した。 「あの苦しい出産を二度も経験しているなんて、花代さんはすごいわ」 「世の女性は、もっと出産している人も少なくないわ。でも一度出産の経験をしたら、慣れるものよ」 女中がお茶を運んできた。二人はそれを飲みながら、庭を眺めていた。 外には、紫色の桔梗(ききょう)の花が揺れている。 「花代さんは、産褥期(さんじょくき)には何をしていたの?」 「ゆっくりしていたのは、四週間程度だったわ。経済的にもすぐに働かなくてはならない状況だったから。でも精神的にイライラしたり、頭痛がしたりしていたわ。できるだけゆっくりしておいたほうがいいわよ」 「ありがとう。そうすることにします」 「……ところで今日は、本所()の工場はお休みですか?」 ひゐろは、花代にたずねた。 「ううん。実は私、工場をクビになったの」                           
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