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第四十七話:男性専制の時代の苦悩
「……えっ?どうして?逮捕された後も工場長が働かせてくれたという話を、お聞きしていたのに」
ひゐろは、花代にたずねた。
「その通りよ。私はすぐに働かせていただきました」
「なのに、なぜ?」
「不況よ、不況」
「……」
「昨日の関東日日新聞を読んでいないの?昨今の不況で全国の職工の解雇された人数は、八十三万五千人とあったわ。私は、その中の一人よ」
不況の影響が雇用にも影響しているのか。
夫が牢獄におり、子どもを二人抱える花代は、どうやって生きていくのだろうとひゐろは思った。
「……これから、どうするのですか?」
「オートガールとして働くわ」
「……えっ?」
「だってまだ助産婦の資格が取れていないし、私は他に何もできないから。背に腹は変えられないでしょ」
「花代さんならお客さんもたくさんついていたし、稼げるわ」
「……まぁね」
花代は少し笑った。
「これからも、私は毅然とした態度で仕事に臨むわ。私、オートガールとして働くことで、松山に嫌な思いをさせたくないの」
相変わらず花代は、松山さんの気持ちを優先している。
「花代さんのそういうところが好きですね」
「……何よ。照れるじゃない」
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