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「他にもね、堺利彦氏は古代にあったといわれる女酋長の話をよくしているわ。昔から女性は賢く、なおかつ強いことを彼は認めているけれど、それが大正のこの時代の考え方にそぐわない。だから彼は、反社会的といわれてしまうの」
「それが理由で、夫や松山さんが逮捕されるのは不条理だと私も思います」
ひゐろも、同意した。
「……残念ながら、現実は厳しいわ。この風潮の中で、やむなく生きていくしかないから」
花代はひたすら、タマを撫でている。
「タマも、現実の厳しさを知っているでしょう?」
「それは、むしろ人間以上かもしれませんね」
ひゐろがそう返すと、二人は声を上げて笑った。
「……それじゃね。折りを見て、また伺うわ」
花代は立ち上がった。
ひゐろは玄関先まで行き、花代を見送った。
「オートガールの皆さんや、事務員さんによろしくお伝えください」
花代はひゐろに手を振り、帰って行った。
玄関先に届いた関東日日新聞の夕刊を手に取り、ひゐろは再び自室に戻った。
暮らし面に目を通すと、
―――女子教育の普及により、読書力が高まる一方で
科学書を読まない女性たち
という見出しを見つける。
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