第四十七話:男性専制の時代の苦悩

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「他にもね、堺利彦氏は古代にあったといわれる女酋長の話をよくしているわ。昔から女性は賢く、なおかつ強いことを彼は認めているけれど、それが大正のこの時代の考え方にそぐわない。だから彼は、反社会的といわれてしまうの」 「それが理由で、夫や松山さんが逮捕されるのは不条理だと私も思います」 ひゐろも、同意した。 「……残念ながら、現実は厳しいわ。この風潮の中で、やむなく生きていくしかないから」 花代はひたすら、タマを撫でている。 「タマも、現実の厳しさを知っているでしょう?」 「それは、むしろ人間以上かもしれませんね」 ひゐろがそう返すと、二人は声を上げて笑った。 「……それじゃね。折りを見て、また伺うわ」 花代は立ち上がった。 ひゐろは玄関先まで行き、花代を見送った。 「オートガールの皆さんや、事務員さんによろしくお伝えください」 花代はひゐろに手を振り、帰って行った。 玄関先に届いた関東日日新聞の夕刊を手に取り、ひゐろは再び自室に戻った。 暮らし面に目を通すと、 ―――女子教育の普及により、読書力が高まる一方で 科学書を読まない女性たち という見出しを見つける。
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