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「これ、下着です。新しいものを身につければ、気分も変わるでしょうし」
「……すまない」
斎藤は風呂敷の中身だけ受け取り、風呂敷をひゐろに返した。
「これから、頻繁にここへ足を運びますね」
ひゐろは風呂敷をたたみながら、そう答えた。
斎藤は警察官を気にしつつ、独房での生活を少しずつ話しはじめた。
早朝の起床のこと、僅かな食事のこと、寒い監獄での就寝のこと、そして監獄の中で松山さんを見かけたことなど。
ひゐろも花代さんから、斎藤がここにいることを聞いたと伝えた。
「独房での生活に加え、ここでは刑務作業として煉瓦をつくっている。内務省が命じた苦役らしいよ」
手拭で汗を拭いながらそう言うと、斎藤は傍にいた警察官に注意された。
「身体を使う仕事も、悪くないよ」
そう言って、斎藤は笑って見せた。
面会時間が残り少ないと感じたひゐろは、斎藤に切り出した。
「……私のおなかの中に、斎藤さんの赤ちゃんがいます」
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