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ただ、働いている間、匡をどうしたらいいのだろう。
その日の夜、ひゐろは民子の部屋に行った。
「……お母様、ちょっといい?」
「ひゐろ?いいわよ。どうぞ」
ひゐろは襖を開け、部屋の中に入った。
民子は蚊帳をつけている最中だった。
「そろそろ、蚊帳もしまう頃ね」
「そうね。ずいぶん涼しくなってきましたし」
「今日はね、中秋の名月の用意をしていたの。三方を出したり、上新粉やお野菜を買ってきたりしたのよ」
民子は蚊帳を広げながら、そう言った。
「そういえば、そろそろ中秋の名月ですね。お母様。お疲れのところごめんなさい」
「……どうしたの?何か用事?」
「ええ。これからのことを相談したくて」
「これからのこと?」
「産褥期が終わったら、働こうと思って。これから匡にも、お金がかかるでしょう?」
「すぐに働くの?」
「早いほうがいいと思っている」
「働き先は、あのオート……」
「オートガールよ。当面、私が働ける仕事は、それしかないの」
ひゐろは、強い口調で言った。
「働くと言っても、匡はどうするの?それに本所區の仕舞屋は、どうするつもり?」
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