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「……そこが問題なの。本所區の仕舞屋は、できたら残しておきたい」
「残すと言ったって、斎藤さんは戻ってこられるかどうかわからないじゃない?あの貸家じゃなければ、どうしてもダメなの?」
「……」
母ににそう言われ、ひゐろは返す言葉がなかった。
ただ小さくて古い仕舞屋であっても、私にとっては愛の巣だ。
あの仕舞屋を引き払うという選択肢は、ひゐろの中にはなかった。
「もうここに住んだら?ひゐろが働きに出ても、とりあえず匡は私が面倒を見てあげるから。最近は不景気で、下宿も一室以外は空いているわ。斎藤さんが帰ってきたら、そこに住めばいいじゃない」
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