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「……もちろん、それはいいけれど。でもその分、家賃を払い続けなきゃいけないのよ。少しもったいない気がするけれど、大丈夫なの?」
「その分は、稼ぎます。お得意様を見つけるし、これまでのお客様にも来ていただくわ」
ひゐろは、微笑んでみせた。
「わかったわ。それでひゐろが良いのなら」
民子はひゐろの提案を、受け入れた。
「……ありがとう。お母様。近々、小菅監獄へ行くわ。まだ夫は一度も、匡に会っていないのですから」
「そうね。斎藤さんも、匡の姿を見たいでしょうから」
「ええ。それでは、おやすみなさい」
ひゐろは民子の部屋を出ていき、廊下を歩いた。
意地を張ったものの、ひゐろは今後のことが不安だった。
本当に家賃を払いながら、匡を育てられるのかと。
ただ、思い悩んでも状況が変わるものではない。
とりあえず今晩は、ぐっすり眠ろうと思った。
翌日、朝食を食べ、自室でひゐろが匡をあやしている時のことだ。
「……お嬢様、よろしいでしょうか。匡さんの襁褓を洗っておきました」
女中が、襖の向こうから声をかけてきた。
「忙しい中、いつもごめんなさいね。産褥期が過ぎたら、私がやりますから」
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