最終話:思わぬ朗報

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産褥期(さんじょくき)は、妻に代わり夫が沐浴をする家庭も少なくない。 ―――この時期の成長を、夫は全く味わえないのか。 新生児の時期をともに過ごせないことを、ひゐろはとても残念に思った。 そして、できるだけ早いうちに匡を連れて小菅監獄(こすげかんごく)へ行こうとひゐろは誓った。 それから、五日ほど経った頃のことだ。 「お嬢様、お手紙が届いております」 (ふすま)の向こうから、女中の声がした。 「ありがとう」 ひゐろは襖を開けてそれを受け取ると、すぐに差出人を見た。 ―――斎藤英太郎 例の角ばった文字だった。 “手紙をありがとう。とうとう匡が生まれたのだね。 匡が五体満足で生まれ、君とともに元気に過ごせているようで、大変うれしく思うよ。 一刻も早く、君と匡に会いたい。 そして、ハンカチをありがとう。毎晩君の香りを感じながら、僕は独居房で眠りについている” ひゐろはその文面を見て、はらはらと涙をこぼし、封書を抱きしめた。 そして今すぐ私を抱いて欲しいと、ひゐろは願った。 九月下旬の晴天の日のことだ。 ひゐろは、小菅監獄(こすげかんごく)へ匡を連れて出かける用意をした。 民子は車夫を呼び、玄関先に待機させた。 支度を終えたひゐろは、匡とともに人力車に乗り込んだ。
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